新婚の若い夫婦がクルマを買おうということになった。今までに２人とも自分のクルマを持ったという経験はない。
さて、ある日の夕方である。２人は街中のディーラーにやってきたのだが、平日だからだろうか、辺りには誰の姿もなかった。店の裏側に廻ってみると、ツナギを着たお兄さんがクルマを洗っていたので、旦那が声を掛けた。
「あの～ちょっとクルマ見ていいですか？」
《いらっしゃい》と言うこともなくお兄さんが返事をした。
「あ～はいはい、どうぞ！」
２人は恐る恐るショールームの中に入って行くと３台のクルマが展示してあった。
「おい、これどう？」
スポーツタイプのクーペを差して旦那が言った。
「248万8.400円！ダメダメ！高過ぎ‼️」
奥さんが即却下する。
「やっぱりっ！・・・」
「これしかないわよ、132万6.000円！これ可愛いし、これがいい！」
夫婦の主導権はもうすでに奥さんが握っているようだった。旦那は裏で洗車をしているツナギのお兄さんを呼びに行った。
洗車を中断してツナギのお兄さんがやってきた。
旦那は132万6.000円のクルマを指差してこう言った。
「これください！」
「は？」
「これください！」
「は、はいっ！ありがとうございます！い、今、営業マン連れてきますから少々お待ちください。あっ！コーヒー入れますので・・」
驚いたツナギのお兄さんは慌てて事務所の中に入っていった。
すぐにひとりの営業マンが出てきた。
「あっ！ど、どうもいらっしゃいませ、どうぞお掛けになってください」
「あの～キャッシュですぐ払いますので、すぐに乗って帰りたいんですけど、妻もそう言ってますし・・・」
「！・・はっあのっ・・登録とか車庫証明とかありまして・・オプションとかのお話も・・・」
初めてクルマを買いにきた若夫婦は、スーパーに買い物に来たようにすぐにクルマに乗って帰ることは出来なかったのであった。
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