No.98【社長の馬】

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ホテルに勤めている彼は競馬好きだった。
ある日、常連客である東京の大きな会社の社長がそのホテルに宿泊した。その社長も競馬好きでホテルマンの彼とは懇意にしている。
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「〇〇くん、オレの馬がG1レースに出るんだけどさぁ、どうだい、今度のレース、オレの馬に賭けてみないかね?」
彼を呼び出した社長はそう言った。
「そうなんですか!それはおめでとうございます!」
「今度の日曜日だ。京都のエリザベス女王杯なんだけどさぁ・・名前が★★★★★っていう馬なんだけど、騎手は◎◎だ」
「その馬、社長の名前が入ってるんですね。★★★★★ですか!そうですか、わかりました。社長への御祝儀の意味を込めて、その話、乗りましょう!」
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さて休暇を取った日曜日、彼は場外馬券場に来ていた。さっそく競馬新聞で★★★★★の人気を見てみると、案の定18頭中の16番人気で埒が明かない。
《でもなぁ、約束だもんな・・・よしっ!買うか!》
彼はもう開き直って馬券を買うことにした。それは、大した馬ではないが、彼が応援している馬と、★★★★★との「馬連」1万円の1点買いという実に無謀な買い方だった。普段から万馬券狙いをする者でも買わないような馬券だ。
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そろそろレースが始まる時間になった。彼は場外馬券場の大きなモニターで競馬中継の画面を凝視している。
「ガシャ~ン!」
ゲートが開いて18頭の馬が一斉に飛び出した。第10レースがスタートしたのだ。
《あぁ~っ!駄目だなぁ~やっぱり》
★★★★★は10番手くらいを走っている。
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『ウォ~~~オ~~~っ!』
地響きのような観衆の声の中を馬群が最後のコーナーを回った時だった。★★★★★が物凄い末脚を見せ始めた。グングンスピードに乗った★★★★★は、先頭集団の中に入ってきて4頭の馬が団子状態になってゴールしたのだった。
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順位の結果は写真判定の審議になった。
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《おいっ!嘘だろっ!》
暫くして点灯された電光掲示板を見て彼は驚いた。
そこには、★★★★★が1着、彼が応援している馬が2着と表示されたのだ。身体が震えてきた。
《やった~っ‼️》
無名馬の大活躍で大荒れのレースとなってしまって、場外馬券場の中には怒声やら歓声やらが飛び交った。
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暫くしてオッズが発表された。
それは705倍という途轍もない数字であった。
1万円が705倍になった瞬間であった。

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