
数年前に大腸癌手術をした僕は、暫くの期間、半年に1回は癌の追跡検診でCT検査を受けなければならなかった。
CT検査は、ベッドに寝かされた被検者が、白いドーナッツのようなドームの中を2往復して行われるのだが、その前に〈造影剤〉の注射をしなければならない。
注射の前に、皮膚消毒のアルコールと、造影剤へのアレルギーの有無を毎回訊かれる。まぁ、事務的な感じは否めない。
造影剤を注入されると身体がポ~ッと温かくなるという作用があるので、何らかの副作用が出ることもあるのだろう。
造影剤の注射はなんということもないのだが、いよいよ検査機の中に入っていく前に、レントゲン検査と同じような指示を受ける。
「はい、息を吸って~・・止めてくださ~い」
止めろと言われると、いつも咳き込みそうになるので困った。
・・・・・・・
その日も朝早くから病院に出向いては受付を済まし、指示されたCT検査室の前の長椅子に腰掛けて順番を待っていた。もうすでに7・8人が集まっている。
30分ほど待って僕の番まであと1人というところまできたのだが、僕の前に検査室に入った中年の御婦人が中々出てこないのだ。
訝しがっているとCT室のドアがサッ!っと開いて女性看護師が慌てた様子で駆け出してきた。
ドアが閉まり切っていなかったので、隙間から中の様子を伺ってみた。するとベッドの上に横たわる中年の御婦人の腕がダランと下に垂れ下がっていて、検査技士ともう1人の女性看護師が、慌てて婦人の頬を叩いたり身体を揺すったりしているのだ。
声も洩れてきた。
「大丈夫ですか❗️聴こえますか❗️」
「いま先生を呼んでいますからしっかりして下さい❗️」
・・・・・・・
間もなく2人の医師がやってきてCT室に飛び込んでいった。
・・・・・・・
暫くしてドアが開くと、御婦人が乗せられたストレッチャーが出てきてどこかに運ばれていったのだった。
《こんなことがあるんだっ❗️》
アナフィラキーショックを目の前で見せられた僕は、造影剤の注射の前にアレルギーの有無を訊くことが、事務的どころか、どれだけ重要なものであるのかを充分過ぎる程知らされたのであった。
幸いその御婦人は意識が回復して、大事には至らなかったそうである。
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