No.203【本物と贋作】

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伊予松山にある〈水月焼〉の窯元を訪ねたことがあった。当時は2代目の女性陶芸家《好川恒悦(よしかわつねえつ)》氏が窯を守っておられた。

〈水月焼〉の創始者である初代《好川恒方(つねかた)》は、明治16年に松山で生を受け、95歳で生涯を閉じた陶芸家である。

〈水月焼〉は、壺・湯呑・急須・皿などはもとより、動物・人物・風景などを写実風に仕上げた焼物で世に名を馳せたが、特に浮き彫りにした天神蟹を模した(湯呑)が有名である。蟹の赤色がまた絶妙で、形も本物の蟹と見惑うほどである。

恒悦氏に色々な〈水月焼〉の作品を見せて頂いたが、それはそれは素晴らしいものばかりだった。大満足した僕は、厚くお礼を申し上げて窯元を後にした。

さて帰り道、道後温泉の商店街を歩いていると、土産物店に赤い蟹が付いた湯呑が並べられているのが目が入ってきた。1店舗だけではなかった。かなりの店に蟹の焼物が並べられているのだった。

ところが、それらは大変よく出来てはいるのだが、皆んな観光土産品の類いなのである。全く素人の僕なのだが、たった今本物を見てきただけで、その違いを瞬時に感じ取ることが出来たのだ。

テレビで色々な物を鑑定する人気番組があるが、鑑定士が本物を見分ける理由が解ったような気がした。

本物を見た知識があるから、贋物を計ることが出来るということなのだった。鑑定士達は、嫌というほど、直に本物に触れ、見てきたに違いない。

考えてみれば当たり前のことである。本物を知らずして贋物を語れるばすはないのだから。

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