No.247【炎のアイスクリーム】

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そのホテルの売り物のひとつに〈ベイクドアラスカ〉と呼ばれるデザートがあった。〈ベイクドアラスカ〉とは、炎に包まれたアイスクリームをお客様にサービスするというものだ。

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それはこういうものである。

まず〈フランベワゴン〉が会場内に入ってくる。ワゴンの上には銀のプラッター(盆)に乗ったアイスクリームとブランデーのボトルが乗っている。

《フランベというのは、料理にブランデーやラム酒などを掛けて火を点け、アルコールを飛ばして風味を付けるという調理法をいう》

そして、タキシード姿のサービス員がワゴンの前に立ったところで場内が暗くなり、やがてマッチでワゴン台の中の固形燃料に火が点けられると、ブランデーグラスにブランデーが注がれる。

斜めに倒したブランデーグラスを青い炎にかざしてブランデーを暖めると、アルコールが気化してくる。そこでグラスの口を炎に触れさせるとブランデーが燃え始めるのだ。

火が点いたブランデーグラスを揺らしながら高く掲げてお客様にプレゼンテーションしたあとに、それをアイスクリームに流し掛けるのだが、零れ落ちるブランデーが火の点いた柱となってアイスクリームに落ちていくのだ。ここがパフォーマンスのクライマックスで、会場内からは拍手が沸き起こる。

なぜ溶けないのかと言えば、卵の白身を泡立てた〈メレンゲ〉でアイスクリームをコーティングしてあるからだ。

暗い中、そうして火の点いたアイスクリームをお客様のテーブルまで持っていって、火の点いたままのアイスクリームをカットして取り分けるというサービスをするわけである。

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さて、その日は同僚が〈ベイクドアラスカ〉のフランベを担当したのだが、ソイツは所謂エエカッコしいだったので、火の点いたブランデーグラスをプレゼンテーションする時間が長すぎたために、火が消えてしまったのだった。オマケに固形燃料のほうも火を消してしまっていたために辺りは真っ暗にはなるし、アイスクリームに炎を掛けることも出来なくなってしまった。

幸いに近くにいた他のサービス員が、速やかにワゴンの裏に手を伸ばして¥100―ライターに火を点けたから、それで再びブランデーグラスに炎が戻ったのだった。

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なんとかフランベを終えてバックヤードに返ってきた彼は皆んなに窘められた。

「オメェさぁ、カッコばっかつけてんじゃねーよ!消火器かっ❗️」

以後、彼は〈消火器野郎〉と呼ばれるようになった。

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