No.249【台北の夜】

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まだ〈台北101〉も無かった頃の話である。

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その日の夜は、台北のホテルに宿泊した。台湾ではホテルのことを〈大飯店〉というらしい。初めて知った。

一旦チェックインしたあと、ディナーショーを観るために、我々ツアー客はバスに乗って〈ナイトクラブ〉へと向かった。

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ナイトクラブは、食事を楽しみながら、美人歌手の歌・台湾獅子・アクロバットなどを観賞するというものだったのだが、その総てがレベルの高いもので、特に台湾獅子舞いの芸には感銘を受けたものだ。

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ナイトクラブのディナーショーを観終ってそのままホテルに帰ってきたのだが、30前の若かった僕には、まだまだエネルギーが有り余っている。とてもそのまま大人しく寝付かれるものではない。そこで隣の部屋の友人に内線を掛けて相談した結果、2人で台北の夜の街を散策しようということになった。

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ガイドが裏路地は危険だから入らない方がいいと言っていたので大通りだけを歩いた。路上には、占い師や似顔絵師やアクセサリー売りなどが小さな店を開いている。せっかくだからと、2人は似顔絵を描いてもらおうということになって、若い女の子の似顔絵師に頼むことにした。ひとりが300元(約¥1.000―)ということなのでかなりの期待をしたのだが、出来上がってみると、残念ながらそこまで似ているというような絵ではなかった。

そこいらじゅうはひと通り歩き回ったのでそろそろホテルに戻ろうかということになったのだが、どうやら道に迷ったらしい。

暫くウロウロしていると、ステテコ姿で椅子に腰掛け、団扇を使いながら夕涼みをしている初老の男性が目に入った。仕方がないので彼に道を訊いてみることにした。

台湾語は到底分からないから、下手な英語と日本語を織り混ぜて訊ねた。

「Excuse me Where is the 〇〇hotel?・・こんばんは、あの~〇〇ホテルは・・どこか教えてください・・」

すると誠に流暢な日本語が返ってきた。

「あなたたちは日本から来られたんですか?」

「❗️・・はいっ!そうです」

「〇〇ホテルはねぇ、ここを真っ直ぐに行ってぇ、すると角に★★っていう店・・食堂があるから、そこを右に曲がって、最初の交差点を今度は左に行くと直ぐに見えてきますよ」

「あぁそうですか!ありがとうございます。あのぉ・・日本語、お上手ですねぇ」

あまりに上手いので僕は訊いてみた。

「あっはっはっ❗️戦争に敗けるまで台湾は日本だったんだから日本語は話せますよ。君が代も歌えるし日本精神も解りますよ。台湾語では〈リップンチェンシン〉と言います。日本時代が懐かしいですね」

彼はそう言って笑うのだった。

《日本精神ってなんだろう?》

情けないことに、日本人の僕が理解できなかったのだ。

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当時、台湾と日本の歴史について、学校では詳しく教っていなかったように思うし、台湾にはなんの興味も持っていなかった僕なのに、台北の街角で彼に出会ったことが、台湾という「国」に愛着を感じ始めるようになったキッカケだったように思うのである。

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