No.338【邂逅の夏⑤】

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結婚を勝手に決めてしまった2人とは言え、それでも緊張した雰囲気を隠せなかったのは仕方の無いことであった。ついさっき会ったばかりなのだから・・・

レストランを出た後、映画でも観に行こうかということになり、路面電車に乗って繁華街にやってきた。

僕は封切りして間もない〈ビルマの竪琴〉という映画を観たかったのだが、お客が殺到していて埒が明かない。渋々オーストラリアとアメリカ合作の〈マッドマックス〉という映画を観ることになった。

それは、荒野で男どもが戦い続けるというもので、凡そ〈お見合い〉の男女が観るような代物ではなかった。

・・・・・・・

映画館を出た時には外はもう暗くなっていた。

急いで帰ったのだが、映画の時間だけが余計だった。皆んなが心配をしていて、親たちに少しばかり叱られてしまった。

彼女の母親が言う。

「アナタたちどうだったの?楽しかった?チョッと遅かったんで心配したわよ」

「お母さん、どうも申し訳ありませんでした。ご心配お掛けしました」

そう言って僕は頭を下げた。

初対面の2人が暗くなるまで帰ってこないのだから心配して当然である。

こうして長い〈お見合いの日〉が終った。

・・・・・・・・

翌日・・・・
彼女と母親と付いてきた妹の3人は帰りの電車の中にいた。

ところが、昨夜からずっとボ~ッとしている彼女を心配した母親が訊ねた。

「〇〇ちゃんどうしたの?どっか具合でも悪いのぉ?夕べからボ~ッとして・・」

すると窓の外の斜め上を見上げながら彼女が言うのだった。

「ん~ん・・別になんともないけど、昨日■■さんにプロポーズされただけ・・」

「ええ~っ❗️アンタッ!早く言いなさいよっ❗️」

母親は仰天してしまった。                                                    (つづく)

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