No.339【邂逅の夏⑥】

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〈お見合い〉の後、僕はすぐに東京に引き返した。

ところが僕には東京で悠長に過ごしている時間などは与えられなかった。

2人の気持ちが変わらないうちにこの縁談を纏めたいと思う双方の両親の話の進め方は電光石火であった。

8月に〈お見合い〉をしたばかりなのに、12月1日の挙式を決めてしまったのだ。

彼女とは結局、手紙を1回やり取りしただけだった。

両親は、東京にいたらフィアンセに会えないから、そっちを引き揚げて帰って来いと言う。仕事はこっちでなんとかするからすぐにでも帰って来いと言うのだ。

僕はもう、大好きな東京を諦めて、急遽、故郷に帰らざるを得なくなってしまった。

東京の仕事を強引に辞めて帰ってきたところは、次の仕事の関係上、実家からは数十キロ離れた所にあるアパートだった。取り敢えずそこが新居になる予定である。

そのアパートは彼女の実家からも100km程は離れていたので、彼女とは結婚までに〈お見合い〉を入れて、結局、3度しか会っていない。

手も触れていないし、な~んにもしていない。出来る訳がない。

それで結婚しようと言うのだから、もう丸っきり明治時代の婚礼である。

・・・・・・・

12月1日、雪がチラつく中、2人の結婚式が行われた。9月生まれの彼女は24歳になっていた。

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まだお互いが恥ずかしいばかりの〈新婚旅行〉の緊張感は、それこそ半端なものではなかったが、その詳細な内容についてはここでは書かないことにする。

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そんな〈新婚旅行〉から帰ってきた来た2人は新居のアパートに入った。

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料理が苦手だと言っていた彼女が初めて作ってくれたのが〈目玉焼き〉だったのだが、今では美味しい料理を食べさせてくれるようになった。

〈お見合い〉の日のレストランで、本当はコーヒーが好きなくせに、恥ずかしさのあまりカッコつけてオレンジジュースを頼んだというような初々しさなんかもう微塵もないし、それどころか、今ではタマにドアも閉めずにトイレに入ったりする程に逞しくなってしまった家内なのだけれども・・・それでもまぁ、仲睦まじく過ごしている・・・ということにしておこう。                                              (終)

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