No.342【忙しい赤ちゃん】

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長男はデブのくせにチョロチョロとよく動き回る赤ちゃんだった。1秒たりともジッとしてはいないのだ。

そんな長男を連れて家内が歯医者に行った時である。待合室の長椅子の上では、相変わらずアッチに行ったりコッチに来たり、家内の膝の上に乗ったかと思うと今度は腹にしがみついて肩まで登ろうとしたり、長男は忙しくってしょうがない。

隣に座っている初老の紳士の膝の上にまで上がろうとしたので家内が慌てて制止した。

「あっ!〇〇ちゃんダメでしょっ! どうもすみません」

すると、その初老の紳士が笑いながら言うのだった。

「いっそ、ジッとしとっちゃぁないですのぉ~」

それは、ちっともジッとしておられませんね、という意味なのだ。

忙しいのは診察室でも同様であった。

赤ちゃんがいたら治療が出来ない。だから衛生士の女性が長男に両手を伸ばして抱っこしようとしたのである。

「は~~いっ!お母さんが終るまでおねえちゃんとお遊びしましゅよ~」

すると抱っこされかけるや火が点いたように泣き出す長男。いくらあやそうがどうにもならない。仕方なく家内に返すと嘘のように泣き止んだ。

結局、長男を家内の腹の上に乗せて、落っこちないように衛生士さんが注意しながらの治療になってしまったのだった。だからひとり余分にベビーシッター役の衛生士さんの手を煩わせてしまうことになった。

・・・・・・・

そんな長男も今では1児の父になった。そして1歳になったその息子だが、やはりチョロチョロとよく動いている。間違いなく父親に似たようだが、体型が普通なので〈デブ〉を受け継ぐことだけは免れたようだ。

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